インピンジメント症候群の整理~第2肩関節の視点から~  篠澤 正樹


Ⅰ はじめに
 インピンジメント症候群とは、腱板とその付着部が烏口肩峰アーチで衝突する病態を指し、原因には様々な種類がある。かつてはインピンジメントが腱板断裂 の原因の主たるものと考えられていたが、現在では腱板断裂を引き起こす原因のひとつであるという考え方が主流である。
 本稿では解剖学的な構造を基に、第2肩関節に着目し、その機能について確認する。また、インピンジメント症候群の理学検査所見については、第2肩関節と 棘上筋を対象にして、骨格模型でインピンジメントが発生する部位を検証した。

Ⅱ 肩峰下インピンジメント症候群
 インピンジメントは「衝突」という意味であり、肩においては烏口肩峰アーチや肩鎖関節が、その下を通る棘上筋や肩峰下滑液包にぶつかる現象を指す。イン ピンジメントの原因は、棘上筋腱が滑走する間隙の狭窄(先天的・後天的)、構造的な異常は認められないが機能的な筋のアンバランスにより通過障害が生じる ことによる。通過障害により肩峰下で動きが完全にブロックされると、肩の挙上は肩甲骨の過回旋が代償しても90~100°程となる。壁に絵を掛けた・物を 持ち上げたなどの軽微な挙上動作、水泳・テニスのトップ打ちなどの反復する外転内旋動作の強制を契機として、発症することが多い。症状は下垂位では乏しい が、挙上動作途中の引っかかりと痛みを訴える。日常生活では衣類の着脱、運転手が後部座席の物を取ろうとした時、腰に手を回して戻そうとする時に「ズキ ン」という痛みを感じる。炎症が起きると患部の肥厚を伴うため、さらにインピンジメントが増悪するという悪循環に陥る。夜間は痛みのために覚醒する場合も ある。
 圧痛は大結節に多いが、小結節・上腕二頭筋長頭腱・烏口突起などでも認められる。理学検査はNeer・Hawkinsのインピンジメントサイン、 painful arcサイン、full-canテスト、empty-canテスト、内旋・外旋テストなどを行う。
 肩峰下インピンジメント症候群の分類を次に記す(表1)。

表1 肩峰下インピンジメント症候群の分類
1 outlet impingement
1.肩峰の骨棘形成
2.肩峰の形態異常
3.肩峰の傾斜異常
4.肩鎖関節の下方突出

2 non-outlet impingement
1.大結節の突出
 変形治療骨折・偽関節、人工骨頭の下方設置
2.骨頭depressorの欠落
 腱板断裂、上腕二頭筋長頭腱断裂
3.肩関節の支点の欠落
 骨頭または関節窩の欠落、不安定症
4.懸垂機構の欠落
 陳旧性肩鎖関節脱臼、僧帽筋麻痺
5.肩峰の欠落
 変形治療骨折・偽関節、先天性欠損

Ⅲ 解剖学
1 第2肩関節
 第2肩関節は肩峰下関節とも呼ばれ、解剖学的な構造の関節とは異なり、解剖学的関節の機能を補助する関節のことである。烏口肩峰アーチと上腕骨頭で形成 される(写真1・2)。
 第2肩関節は大結節の運動路の役割を果たす。この運動路に障害が起きると、棘上筋腱や肩峰下滑液包の一部がこの間で挟まれ、機械的な圧迫によってインピ ンジメントが発症する。上肢を側方挙上すると上腕骨大結節が烏口肩峰アーチにあたるが、生体では外旋位をとって大結節を後下方に逃がしている。
 ここは大・小結節および腱板が、自由に回旋できるスペースが必要となる部である。このスペースに関して、肩甲骨を外側から観察した際(肩甲骨Y撮影)の 肩峰の傾斜が重要となる。aのように角度が大きいと肩峰下のスペースは広がるが、bのように角度が小さくなるとスペースが狭くなり、インピンジメントを生 じやすくなる。また、cのように肩峰の前下方から烏口肩峰靱帯に沿って突出した骨棘も、このスペースを狭くする要因のひとつとなる(図1)。
第2肩関節
写真1 第2肩関節

第2肩関節
写真2 第2肩関節

肩甲骨Y撮影による肩峰の傾斜
図1 肩甲骨Y撮影による肩峰の傾斜(a,b,c)

1.烏口肩峰アーチ
 烏口突起・肩峰・烏口肩峰靱帯で形成される。烏口肩峰靱帯は烏口突起と肩峰の間に張る(写真3・4・5)。
烏口突起肩峰
 写真3 烏口突起               写真4 肩峰

烏口肩峰靱帯
 写真5 烏口肩峰靱帯

2.上腕骨大結節
 上腕骨頭付近の外側には、結節とよばれる骨の隆起が2つ存在する。結節間溝を堺に外後側は大結節、前側を小結節と呼ぶ。大結節は腱板筋群が停止する広い 面で、上面、中面(後下方)、下面(後方)の3面に区分される。(写真6・7)

大結節大結節
  写真6 大結節                写真7 大結節

2 棘上筋
 肩甲骨の棘上窩から起始して、肩甲上腕関節の真上を走行して、上腕骨の大結節に停止する。肩甲上腕関節の上方を腱となって走行し、関節包と癒合してこれ を補強する。腱の表層は三角筋でおおわれ、三角筋との間に三角筋下滑液包がある。肩峰との間にも大きな肩峰下滑液包がある。
 これらの滑液包によって、腱の動きは摩擦が少なく円滑に行われる(図2、写真8)。
棘上筋腱の停止部 棘上筋
 図2 棘上筋腱の停止部          写真8 棘上筋

3 肩峰下滑液包
 肩関節周囲にはいくつかの滑液包がある。腱が骨や靱帯、靱帯同士が擦れる部位、皮膚が骨隆起の表層を動く部位に存在している。滑液包の一部は関節窩と交 通しているため、関節包を開くということは関節窩に進入していると同様の意味をなすこともある。
 肩峰下滑液包は肩峰下包とも呼ばれ、人体最大の滑液包である。下方は三角筋、内方は烏口突起、後外方は肩峰下面まで広がった半球状の大きな滑液包であ る。この解剖学的位置関係から、腱板の病的変化による二次的変化を受け易い。また、三角筋下滑液包と交通する場合もある。
肩峰下滑液包

Ⅳ 理学検査
 インピンジメント症候群は棘上筋や肩峰下滑液包が、烏口肩峰アーチや肩鎖関節に衝突する現象を指す。ここでは、第2肩関節と棘上筋に着目し、患部を棘上 筋としてインピンジメントが発生する部位を検証した。

1 Neerのインピンジメントサイン
 患者の後側方に立ち、一方の手で肩甲骨を保持する。もう一方の手で上肢(回内位)を最大挙上させた時、疼痛が誘発されれば陽性である。
 患部は肩峰前下面で衝突する(写真9・10)。
Neerのインピンジメントサイン肩峰前下面での衝突
  写真9 Neerのインピンジメントサイン  写真10 肩峰前下面での衝突

2 Hawkinsのインピンジメントサイン
 肩90°前方挙上位、肘90°屈曲位で肩を内旋させる。疼痛が誘発されれば陽性である。患部は烏口肩峰靱帯および烏口突起で衝突する。写真は烏口肩峰靱 帯での衝突を示す(写真11・12)。
Hawkinsのインピンジメントサイン烏口肩峰靭帯での衝突
写真11 Hawkinsのインピンジメントサイン 写真12 烏口肩峰靭帯での衝突

3 painful arcサイン
 下垂位から自動挙上させる。様々な挙上面と回旋角度で試す必要がある。一般的には、外転70~120°の範囲で疼痛が誘発されれば陽性である。
 下垂位から徐々に外転した場合、70°を超えた辺りで患部は肩峰下面と接触し、疼痛が誘発される。さらに、120°を超えると患部が肩峰下面を通過する ため、疼痛が消失する(写真13・14)。
外転70度を超えた患部外転120度を過ぎた患部
写真13 外転70°を超えた患部     写真14 外転120°を過ぎた患部

Ⅴ おわりに
 本年度の研修講座は肩関節周囲炎を取り上げ、理療アプローチでの可能性について紹介した。資料作成の過程で、「NeerとHawkinsのインピンジメ ントサインは何が違うのだろう?」という疑問を抱き、参考書や専門誌で納得のできる答えを探求した。各々のインピンジメントサインの相違が、衝突部位にあ るという結論に至り、わだかまりが解消された。この結論は、自身で出した私の「答え」である。
 微力ながら、この「答え」が理療技術の進歩に応じた理療教育の一助となればと思い、本稿にこれを記す。


《引用・参考文献》
1)  図説 新 肩の臨床:高岸憲二、メジカルビュー社、2006
2)  整形外科 痛みへのアプローチ 肩の痛み:寺山和雄、南江堂、2006
3) 肩関節痛のリハビリテーションに必須な評価法と活用法:森原 徹、The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine 2017年54巻11号 p841-848
4) 日本医事新報社:https://www.jmedj.co.jp/
5) 肩の臨床 機能と診断・治療:尾崎二郎、メジカルビュー社、1986



症例報告集へ戻る
ホームへ戻る