足底筋膜炎に対する理療治療 羽立 祐人Ⅰ 足底筋膜炎の概要 1 原因 足底筋膜は踵骨内側結節より起始し前足部の中足骨頭近くの靱帯に停止している強靱な腱膜であり、軟部組織を覆い、縦アーチを支えている。
足底筋膜と踵骨の付着部には、強い牽引力とともに、着地時の衝撃(圧迫力)の両方が加わることで過大な負荷がかかる。そのため長時間の立ち仕事や歩行、体重増加やランニング、ジャンプの繰り返しによる使いすぎが主な原因となる。 2 病態 足底筋膜炎は繰り返し負荷がかかることにより、足底筋膜と踵骨との付着部に微小外傷や変性が起こることで痛みが生じる。腱靱帯付着部症(エンテソパチ-)のひとつである。
負荷がかかる背景には、歩行時や走行時のアライメントの乱れがある。特に立脚期終期における足関節の過回内は扁平足を引き起こし、足底筋膜に強い牽引力が加わることで微小外傷が生じる。 初期は足底筋膜と踵骨との付着部に微小外傷があらわれる。進行にともない、石灰化や骨化などの変化がみられるようになり、X線では骨棘が見られることもある。 3 症状 長時間の立ち仕事や歩行により、かかとの内側前方に痛みが出現する。階段の昇るときやつま先立ちで増強する。起床して最初の1歩目で痛みを感じる。歩いているうちに徐々に痛みは軽減するが、夕方になって歩行量が増えると再び痛みが増強する。
同様の症状は、マラソンなどのランニング開始時に強く起こる。痛みは運動を続けていくうちに徐々に軽減するが、長時間になると再び痛みが強くなるのが特徴である。 4 診断 以下の症状が認められれば足底筋膜炎と診断される。 (1)足底筋膜と踵骨との付着部に圧痛がある。
(2)長時間の立位、歩行、走行、歩行開始時のいずれかで疼痛がみられる。
(3)神経の圧迫や障害(足根管症候群)、筋・腱の部分断裂(後脛骨筋機能不全)、反射性交感神経性萎縮症(RSD)、足底腱膜線維腫症などは除外される。
(4)MRIでは足底筋膜の肥厚と信号変化が観察される場合がある。またX線で骨棘が認められることもあるが診断の決め手とはならない。
5 治療 1.整形外科的治療 (1)保存的治療 ①アキレス腱や足底筋膜のストレッチ ②足底挿板(インソール)の装着 ③非ステロイド鎮痛薬 ④ステロイド局所注射 痛みが強い場合でも効果が期待できるが、腱膜断裂の恐れがある。 (2)手術療法 重症の場合は、足底筋膜の付着部を切除する手術や、骨棘を切除する方法をとることもある。
(3)体外衝撃波治療(ESWT) 体外衝撃波(音速を超えて伝わる圧力の波)を患部に照射することで痛みの伝達を断ち切る。
北海道整形外科記念病院での外傷発生状況によると、足底筋膜炎の発生件数は全体の5番目であり、比較的多い。
足底筋膜炎に対する治療では、体外衝撃波治療(ESWT)を積極的に行っている。ESWTの治療成績は、7~8割で痛みが軽減しており、手術療法やステロイド治療よりもリスクが低いことから、難治性の足底筋膜炎に対する治療の第一選択として期待できる。 図1 陸上競技(長距離)における外傷発生状況 (北海道整形外科記念病院での20年間の調査)総数1408件
2.理療治療 (1)鍼治療 圧痛部に置鍼や雀啄を行う。 (2)低周波鍼通電療法 ①寸3-3で圧痛部を挟むように刺鍼し、50~100HzのINTもしくは3Hz/50HzのMIXで20分通電する。
②短趾屈筋や短母趾屈筋に刺鍼して、1~3Hzで15分通電する。
3.その他の療法 (1)テーピング キネシオテープを用いて、足部にフィギュアエイトを施す。足関節を背屈位に矯正することで足関節や踵骨の過回内を防ぐ効果が期待できる。ただしテーピングは、皮膚が過敏な場合や痛みが増悪した場合は処方を中止する。
(2)インソールの装着 インソールを装着することで足部のアライメントを整え、足関節の過回内を防ぐことができる。また歩行時や走行時における足趾の機能改善も期待できる。しかし、インソールは様々な種類があり、物によっては足部のアーチの矯正が強すぎて足趾や足根骨の動きを制限させるものもある。そのようなインソールは、かえって足部の内在筋を弱化させ、扁平足を進行させたり、足底筋膜炎を悪化させることもあるため注意が必要である。
(3)歩行時や走行時のフォームの矯正 歩行時や走行時の着地の際、足趾が外側を向いていないかチェックする。足趾が外側を向いている場合は、膝が内に入り足関節の過回内が起こりやすい。着地時、足趾は努めて正面を向くようにフォームを矯正する。エルゴメーターを使用した足部の矯正も有効である。
Ⅱ 症例報告 1 患者プロフィール 30歳 男性 身長:173cm 体重:68kg 会社員 マラソンランナー(フルマラソン2時間40分) 2 主訴 足底かかとの痛み(左) 3 現病歴 主訴であるかかとの痛みは、平成30年5月頃から感じている。痛みはランニングの練習開始時に感じるが、しばらくすると痛みは和らぐ。発症当初は、さほど気にならなかったが、7月頃から痛みが強くなり、日頃の練習にも支障がでるようになった。9月から10月のマラソン大会はキャンセルをして治療に専念している。
4 経過 治療期間は9月から11月までの全8回 主な治療内容 (1)低周波鍼通電療法:足底踵部の圧痛部を挟むように刺鍼し、3Hz/50HzのMIXで20分通電
(2)手技療法:下腿部の筋を中心に圧迫法および揉捏法
(3)テーピング:キネシオテープ(足関節のフィギュアエイト)
(4)練習時のインソール装着
(5)ランニングフォームの改善:走行着地時、足趾が外側を向かないようにフォームを修正する。
初診から数回は、治療直後での痛みの軽減がみられたが練習を開始すると再発を繰り返した。
週1~2回のポイント練習では、足部にキネシオテープを処方し、過回内を防ぐとともに足底筋膜にかかる負荷の軽減を図った。 10月頃から痛みが軽減したため、徐々に練習の強度を上げた。 11月にはほぼ痛みが消失し、競技に復帰した。 5 まとめ 足底筋膜炎の圧痛部に対する低周波鍼通電療法は、一時的な鎮痛効果と痛みによる負のスパイラルを断ち切る効果は十分に期待できると思われる。しかし、鍼治療はあくまでも対処療法であり、原因へのアプローチは難しい。そこでキネシオテーピングやインソールの処方、ランニングフォームの修正を図ることで足底筋膜の負荷を軽減し、再発の予防、さらには扁平足の進行抑止に繋げられると考える。
《引用・参考文献》 1)中村耕三、下肢のスポーツ外傷と障害、中山書店、2011 2)臨床スポーツ医学、文光堂、2014.7 3)オコナー・R・P・ワイルダー、ランニング医学大事典、2013.3 4)原則行、下肢のスポーツ障害~長距離ランナーのスポーツ障害を理解する、2018.7 症例報告集へ戻る ホームへ戻る |