めまいに対する理療治療 篠澤 正樹Ⅰ はじめに 臨床の現場において、メニエール病と診断された方や主訴以外にめまい症状を訴える患者に遭遇する場合がある。最近では、日本におけるメニエール病の患者数は4~6万人と推定している報告もある。
この研究紀要では、「めまい≒メニエール病」となっていないかに留意し、めまい症状を有する疾患の鑑別法について考察する。また、めまい症状を有する病態の中で遭遇しうる疾患について、実践的な理療のアプローチの方法とその結果について報告する。 Ⅱ メニエール病とは 1 概要 回転性のめまい発作が反復病態で、耳鳴、難聴を伴う。1861年にメニエールによって報告された。10万人当たり15人の有病率である。
2 成因と病態生理 内耳の内リンパ水腫が原因だとされているが、水腫を起こす原因は不明である。
内耳の循環障害によるとの説が有力で、感染後、外傷後、自己免疫疾患などでもみられる。内耳は骨迷路とその中に収まる膜迷路からなる。骨迷路は前庭、半 規管、蝸牛で形成される。膜迷路は卵形嚢・球形囊、膜半規管、蝸牛管で形成される。骨迷路と膜迷路の間には外リンパが、膜迷路内には内リンパがおさまる。 内耳の血管はいずれも内耳孔から内耳に入る。心臓に近い側から鎖骨下動脈、椎骨動脈、脳底動脈、迷路動脈という経路をたどり、 前庭枝と蝸牛枝に分岐して内耳に至る。平衡感覚に関与する感覚細胞は、球形囊・卵形嚢にある平衡斑、膜半規管にある膨大部稜に存在する。平衡斑の感覚細胞 は平衡砂を載せている。この平衡砂は体が動くと慣性によって移動し、感覚細胞(有毛細胞)を興奮させる。膨大部稜の感覚細胞は クプラ というゼラチン様の中に存在する。聴覚に関与する感覚細胞は蝸牛管にあるラセン器(コルチ器)に存在する。 その他、種々の外因・内因によっても発症するため、ストレス病の一種とも考えられている。 3 症状 めまい発作、一側性の耳鳴、難聴が主な症状で、これらが関連して反復して現れる。吐き気、嘔吐、冷や汗を伴うこともある。
4 診断 めまい、耳鳴、難聴があり、聴力検査では中・低音域で感音難聴を示す。低音域は125~250Hz、中音域では
500~2000Hzにかけて障害されやすい。眼振検査では発作時に水平回旋混合性の眼振があり、温度眼振検査では患側耳の刺激で軽度ないし中等度の反応
低下がある。温度眼振検査とは内耳を刺激しておこなう平衡機能検査の一つである。
温度眼振検査 ①頭部を水平面より 30度挙上した仰臥位にする。 ②冷水(30℃)又は温水(44℃)を外耳道に20ml注いで、内耳の外側半規管を刺激する。 正常所見 冷水を注いだ場合→注いだ方と反対側に水平眼振が起こる。 温水を注いだ場合→注いだ方へ水平眼振が起こる。 また、日本めまい平衡学会から「めまいの診断基準化のための資料 診断基準2017年改定」の報告があった。その中に、メニエール病の診断基準についての記載があったため、次に記す。
メニエール病(Meniere’s disease)診断基準 A.症状 1.めまい発作を反復する。めまいは誘因なく発症し、持続時間は10分~数時間程度。 2.めまい発作に伴って難聴、耳鳴、耳閉感などの聴覚症状が変動する。 3.第Ⅷ脳神経以外の神経症状がない。 B.検査所見 1.純音聴力検査において感音難聴を認め、初期にはめまい発作に関連して聴力レベルの変動を認める。
2.平衡機能検査においてめまい発作に関連して水平性または水平回旋混合性眼振や体平衡障害などの内耳前庭障害の所見を認める。
3.神経学的検査においてめまいに関連する第Ⅷ脳神経以外の障害を認めない。4.メニエール病と類似した難聴を伴うめまいを呈する内耳・後迷路性疾患、小脳、脳幹を中心とした中枢性疾患など、原因既知の疾患を除外できる。
5.聴覚症状のある耳に造影MRI で内リンパ水腫を認める。診断 ・メニエール病確定診断例(Certain Meniere’s disease) A症状の3項目を満たし、B検査所見の5項目を満たしたもの。 ・メニエール病確実例(Definite Meniere’s disease) A症状の3項目を満たし、B検査所見の1~4の項目を満たしたもの。 ・メニエール病疑い例(Probable Meniere’s disease) A症状の3項目を満たしたもの。 ・診断にあたっての注意事項 メニエール病の初回発作時には、めまいを伴う突発性難聴と鑑別できない場合が多く、診断基準に示す発作の反復を確認後にメニエール病確実例と診断する。
(「めまいの診断基準化のための資料 診断基準2017年改定」より引用、一般社団法人 日本めまい平衡学会)
5 治療 急性期には安静臥位とし、めまいや嘔吐に対して対症療法をおこなう。
発作予防には精神安定薬や循環改善薬を投与する。発作が頻回の場合や薬物療法に抵抗性の場合には、手術療法をおこなう。手術には内リンパ嚢開放術、前庭神経切断術、ゲンタシン鼓室注入術などがある。 6 経過・予後 メニエール病の1回の発作は比較的短く、1週間以内である。発作は反復し、次第に難聴が進行する。
Ⅲ めまいを発症する主な疾患と鑑別、その特徴 1 主な疾患 1.中枢性 (1)脳血管障害 脳底動脈領域の病変でめまいが発生する。椎骨脳底動脈循環不全では一過性の神経症状(意識、視力、言語、運動、知覚の障害)を伴っためまい発作をきたす。めまいは非回転性のことが多い。また、小脳の出血や梗塞で回転性めまいや頭位性めまいが生じる。
(2)脳腫瘍 脳幹、小脳、小脳橋角部の腫瘍によって生じる。めまいは少ないが、ふらつきがみられる。小脳橋角部の腫瘍(特に聴神経腫瘍)では耳鳴、難聴で初発し、進行すると脳神経障害が現れる。
(3)脳変性疾患 脊髄小脳変性症ではふらつきが主体であり、小脳性運動失調症状が認められる。
2.末梢性 (1)メニエール病 突発性に回転性めまい発作をきたすと同時に、耳鳴、難聴、耳閉塞感などの蝸牛症状と悪心・嘔吐などの自律神経症状を
伴う。一般に特別な誘因もなく発来し、悪心・嘔吐を伴い、数分ないし数時間持続する。聴力検査では高度の感音性難聴が認められる。原因は、内リンパ水腫に
よるとされている。
(2)発作性頭位眩暈症 めまいの原因の中で最も多く、一定の頭の位置を取ることや寝返りや起床などの頭位変換によって誘発される回転性めま
いと眼振がみられる。めまいの症状は数十秒から長くても数分で完全に治まり、耳鳴りや聞こえの悪化を伴うことはない。重力の直線加速度を感知するのに役立
つ平衡砂の一部が、回転速度を感知する半規管の中に入り込み、頭位変換によって半規管内を移動する。これにより、半規管内の内リンパに流動が生じ、感覚細
胞を刺激してめまいが起こる。
(3)突発性難聴 突然、高度の感音性難聴をきたす原因不明の疾患である。内耳性の障害で、通常は片側性、30~60才代に好発する。耳鳴、難聴、耳閉塞感、時にめまいを伴うが、メニエール病と異なり、めまい、難聴発作が反復して起こることはないとされている。
(4)内耳炎 内耳における感染、炎症によって難聴、めまいをきたす疾患で、これには中耳炎、髄膜炎、ウイルス感染によるものがあ
る。中耳炎では特に真珠腫性中耳炎の急性悪化として突然、めまい、難聴の悪化、悪心・嘔吐をきたす。また、髄膜炎によるものは内耳に炎症が波及することに
よって生じ、高度の難聴になる。ウイルス性の内耳炎は生後の感染として帯状疱疹ウイルス、麻疹ウイルス、流行性耳下腺炎ウイルスなどが知られている。
(5)前庭神経炎 上気道炎に続発して突然一側性の末梢前庭障害をきたす。眼振(健側向き眼振)と激しい回転性めまいをきたすが、経過とともに改善する。
3.その他 (1)起立性調節障害 青年期や学童期に多くみられる。起立時や歩行時に失神感、眼前暗黒感などのいわゆる立ちくらみの症状をきたす。耳症状、神経症状などを欠く。起立時の反射性の血圧調整機能の障害による。
(2)心因性めまい 器質的病変が認められず、病変および症状の再現性が認められない。また、症状と所見が一致しないめまいであり、精神的要因について調べることが必要である。
2 鑑別 1.めまいの性質による分類
2.めまいの発現状況とその経過から推定される疾患
3.めまいの随伴症状から推定される疾患
4.めまい既往歴から推定される疾患および病態
3 各鑑別疾患の特徴
近年、第4のめまいとして「頸性めまい」の存在が知られているが、発生のメカニズムはよくわかっていない。肩こりと表現される頸部筋群の異常緊張と前庭 中枢への情報のミスマッチや、頸髄に存在する前庭脊髄路や上行性神経路の脊髄小脳路が障害された結果という説などがある。頸性めまいの特徴を次に記す。 頚性めまいの特徴
Ⅳ 理療治療 1 治療対象 不適応となるのは中枢性めまいである。
治療対象はメニエール病、発作性頭位眩暈症、頸性めまいである。なお、突発性難聴のめまいに対しては、長くても1週間で症状が治まるため、鍼灸治療は行われない。 2 基本治療 めまいがある時は、頸部に筋緊張が必ず出現すると考えられている。
めまい患者では頸肩部の筋緊張が増加すると、めまい感が増悪すると訴えることが多い。治療においては、対象となる筋をしっかりと触察し、左右の筋緊張のバランスを取ることが重要である。 対象となる筋:頭・頸板状筋、胸鎖乳突筋など 頭板状筋 起始:第3~7頸椎の項靱帯、第1~2胸椎の棘突起 停止:乳様突起 頸板状筋 起始:第3~6胸椎の棘突起 停止:第1~2頸椎横突起の後結節 胸鎖乳突筋 起始:胸骨柄の上縁、鎖骨の内側1/3 停止:乳様突起 3 各疾患に対する治療方針 「2 基本治療」に加え、各疾患に対して次の治療や留意事項を追加する。 1.メニエール病 メニエール病の治療で大切なことは、発作の予防である。病態は内リンパ水腫であるため、内耳の血流改善を目的とした治療を行う。このことが同時に、内耳感覚細胞や内耳神経の活動を正常化させる働きがあると考えられている。
対象とする部位:耳周囲の側頭骨2.発作性頭位眩暈症 一定の頭の位置を取ることや寝返りや起床などの頭位変換によって誘発されるため、症状が出現しやすい姿勢を回避して施術を行う。
留意事項:治療中は症状が出現する姿勢を回避する3.頸性めまい 平衡感覚は耳・眼・深部感覚受容器の三者からの情報が延髄の前庭神経核に集合し、互いに照合されて保全される。その
ひとつである深部感覚受容器は、全身の至るところに存在している。頭位との関連を考えた場合、この受容器は頸部深部筋である後頭下筋との関わりが深い。後
頭下筋は項部の最深層にある筋群で小後頭直筋、大後頭直筋、上頭斜筋、下頭斜筋の4対が属する。
対象とする筋:後頭下筋 小後頭直筋 起始:環椎の後結節 停止:後頭骨の下項線の内側1/3 大後頭直筋 起始:軸椎の棘突起 停止:後頭骨の下項線の中央 上頭斜筋 起始:環椎の横突起 停止:後頭骨の下項線の中央 下頭斜筋 起始:軸椎の棘突起 停止:環椎の横突起 4 鍼治療 1.置鍼:寸6-1番、10分 2.低周波鍼通電:寸6-3番、10~15分 3.刺入部位と深さ (1)頭板状筋、胸鎖乳突筋など ア.頭板状筋 刺入部位:完骨の内下方1cm、C4棘突起の外方2cm 深さ:15mm イ.胸鎖乳突筋 刺入部位:扶突 深さ:15mm (2)耳周囲の側頭骨 刺入部位:聴宮 深さ:10mm 刺入部位:翳風 深さ:20mm (3)後頭下筋 刺入部位:外後頭隆起と乳様突起の中点 刺入方向:内上方 深さ:30mm 5 セルフケアの指導法 ※仰臥位の姿勢で、患側を右側として記述する。 1.頭・頸板状筋、後頭下筋、頭半棘筋など (1)ストレッチ ア.頭の後ろで手を組み、頸部を屈曲させる。 イ.次に顔を左側に向けて、頭をゆっくり左回旋させる。 ウ.左回旋の具合によって、ストレッチの度合いを調節させる。 (2)ゴルフボールを使用した圧迫方法 ア.頭の後ろで手を組み、右側の後頸部と掌の間にゴルフボールを入れる。 イ.次に頭をゆっくり左右に振らせる。 ウ.頸部の屈曲伸展具合によって、圧迫する圧を調節させる。 エ.ゴルフボールが棘突起に直接当たらないように注意させる。 2.胸鎖乳突筋、斜角筋など (1)ストレッチ ア.はじめに腰の下に右手を入れ、右側の上肢を固定させる。 イ.次に顔全体で右斜め上を見るように、頭の位置をずらす。ストレッチ感が得られない場合は、そのまま床を見るように指示する。
ウ.頭のずらし具合によって、ストレッチの度合いを調節させる。(2)胸鎖乳突筋の圧迫法 ア.顔全体で左斜め上を見るように、頭の位置をずらす。 イ.胸鎖乳突筋の起始部を圧迫する場合は、右手の母指と示指の2指で筋を把握させる。 ウ.胸鎖乳突筋の停止部を圧迫する場合は、左手の母指と示指・中指・薬指の4指で筋を把握させる。 エ.左手の母指で押圧を加減させる。 Ⅴ 症例報告 1 30代 女性 1.主訴 めまい 2.病歴 2017年の6月頃から、原因不明のめまいと耳鳴りが時々ある。発症当初と比べると、徐々に改善傾向にある。
病院でイソバイドを処方されているがメニエール病という診断はついていないため、現在は疾患の診断待ちという状態である。 薬名 イソバイド:脳腫瘍時の脳圧降下、頭部外傷に起因する脳圧亢進時の脳圧降下、腎・尿管結石時の利尿、緑内障の眼圧降下、メニエール病に用いる。
3.自覚症状 主訴のめまいは回転性で、耳の閉塞感を伴うことが多い。首のこり(後頭下筋)によって増悪する。
主訴のほか、肩こりがある(右<左)。 4.他覚症状 筋緊張: 頭半棘筋 5.治療法 ホットパック:頸部、腰部 鍼:寸6-1番、置鍼、10分 五頸 ※鍼を初めて受けるため、1穴とした あん摩:頸肩部を中心に全身 指圧:後頭下筋群 6.経過 初診日は9月上旬、最終治療日は10月中旬、治療は合計3回と少なかった。理由としては、家族と一緒に当センターで治療を受けていたが、家族の引越に伴い、足が遠のいたと思われる。
初診時の直後効果は、すっきり軽くなった感じがするとのことであった。毎年、秋頃にめまいと耳鳴りの頻度が増加するということであったが、治療期間中に症状の出現はなかった。 2 40代 女性 1.主訴 耳鳴り 2.病歴 2013年の11月から耳鳴りがするようになった。症状は緩解と増悪を繰り返し、現在は横ばい傾向にある。
薬名
医療機関の受診歴は2005年に近所の耳鼻科で「このままでは耳が聞こえなくなる」と言われイソバイドを処方された。症状が落ち着いたため、1年程で通 院と服薬を自己判断で中断した。2013年の11月に音が二重に聞こえ始めたため、他の耳鼻科を受診した。そこの医師は「メニエール病なのかな?」という 所見で、診断名は明確にされていない。現在はイソバイド、アデホス、ベタヒスチン、メコバラミンを服薬している。 イソバイド:脳腫瘍時の脳圧降下、頭部外傷に起因する脳圧亢進時の脳圧降下、腎・尿管結石時の利尿、緑内障の眼圧降下、メニエール病に用いる。
アデホス:頭部外傷後遺症に伴う諸症状の改善、心不全・消化管機能低下のみられる慢性胃炎・メニエール病および内耳障害に基づくめまいの治療、調節性眼精疲労における調節機能を安定させる。
ベタヒスチン:内耳の血流を増やすことにより、回転性のめまいを和らげる。通常、メニエール病、メニエール症候群、眩暈症に伴うめまいの軽減に用いられる。
メコバラミン:末梢性神経障害の治療に用いられる。3.自覚症状 主訴は耳鳴り(右<左)で、日によって異なるが「キーン」、「サーッ」、「ザーッ」と聞こえる。症状は朝の方が強く感じ、寝不足によって増悪する。軽快因子は特にない。
主訴のほか、難聴・耳閉塞、めまいがある。めまいは幼児期から自覚しているが、2015年の4月と7月に発作のような強いめまいがあり、立位を取ることができなかった。 4.他覚症状 アライメント:各腰椎前後変移 胸椎右側弯、巻き肩 筋緊張:右僧帽筋上部線維、左板状筋 5.治療法 鍼:寸3-1番、置鍼、10分 右聴宮 低周波鍼通電:寸6-3番、1Hz、15分 左頭板状筋(完骨の内下方1cm、C4棘突起の外方2cm) あん摩:後頸部 6.経過 患者は本校職員だったため、主訴やめまい症状について、経緯や治療期間中の自覚症状について、都度確認を取ることができた。
初診日は12月上旬、最終治療日は1月下旬、治療は合計5回であった。初診時の問診では、『就寝時においても「ザーッ」という耳鳴りがあり、気になって眠れなかった』という状況であった。 初診時の直後効果は不変、もしくはほんの少し軽快という程度であった。治療期間中、VASは治療前・後ともにほぼ6(10段階)を示し、3回目の治療の時だけが治療前・後で4という数値であった。治療期間中の記録を次に記す。 治療期間中の記録
Ⅵ まとめ 初診でめまい症状を訴える患者に遭遇した場合、問診の会話等で違和感があれば、中枢性疾患を疑う必要がある。頻度としては実際に少ないと思われるが、TIAを含む脳血管障害の疑いがある場合には、ベッドサイドでも実施できる左右の腱反射の比較や頭痛・嘔吐・視覚異常について確認することが重要である。末梢性疾患の鑑別・各疾患の特徴はⅢで示したが、メニエール病の確定診断にはMRIが必須である。それは、蝸牛の断面画像において前庭階と蝸牛管を隔てるライスネル膜に、偏倚が認められるためである。ライスネル膜の偏倚は前庭階と蝸牛管の圧力差の現れであり、そこに内リンパ水腫があることを意味する。したがって、MRIの設備がない医療機関ではメニエール病の確定診断は難しいと思われる。
われわれ理療師の臨床の現場において、治療対象となる疾患はメニエール病、発作性頭位眩暈症、頸性めまいである。めまい症状がある時は、頸部に筋緊張が必ず出現すると考えられている。そのため、めまい症状の基本治療は、各疾患において対象となる頸部の筋をしっかりと触察し、治療で左右の筋緊張のバランスを取ることが重要である。これに加え、メニエール病の疑いがあれば、内耳の循環改善を目的に耳周囲の側頭骨へのアプローチを試みる。発作性頭位眩暈症であれば、症状が出現する姿勢を回避するという患者への配慮が必要である。同時に、頸部の治療では患者がどの体位であっても施術が可能というような、施術者側の技量が問われるであろう。頸性めまいの場合は、頸肩部のアプローチに加え、深部感覚受容器との関連から後頭下筋の存在を見落としてはならない。あん摩・マッサージ・指圧、鍼、灸の施術のみに留まらず、セルフケアの指導も行い、理療師として広い視野を持って治療に介入すべきである。 症例報告にある40代の女性の主訴は耳鳴りであり、めまい症状は強くない患者であった。継続治療を終えた2~3週間後、「音が二重に聞こえるという症状が出現し、集中的に耳鼻科を受診している」と報告を受けた。良く言えば治療期間中は治療の効果があり、治療の終了に伴って状態が悪化したようにも解釈できるが、この事実を証明できる根拠はない。 治療期間中は、治療前後においても大幅な症状の改善は見られなかった。しかし、重要なのは症状を悪化させないことであり、「発作を予防する」ことに焦点を絞って治療を継続すれば、患者からの理解・信頼を得やすいのではなかろうか。そして、それが理療の可能性に繋がるのではないだろうかと考えた症例であった。 《引用・参考文献》 1)奈良信雄:臨床医学各論、医歯薬出版株式会社、2008 2)株式会社 医道の日本社:医道の日本Vol.71 No.2(通巻821号)、2012 3)株式会社 医道の日本社:医道の日本Vol.65 No.10(通巻756号)、2006 4)浅井宏祐:図解鍼灸療法技術ガイドⅡ、株式会社文光堂、2012 5)渡辺行雄:メニエール病診療最近の動向、富山大学医学部耳鼻咽喉科学教室 6)東儀英夫:よくわかる 頭痛・めまい・しびれのすべて -鑑別診断から治療まで-、株式会社 永井書店、2003 7)教科書執筆小委員会:新版 経絡経穴概論、株式会社 医道の日本社、2012 8)河上敬介、磯貝 香:骨格筋の形と触察法、大峰閣、2006 9)オリエンス研究会:臨床理療学 第2巻、社会福祉法人 岡山ライトハウス、2012 10)Valerie DeLaune:トリガーポイント治療 セルフケアのメソッド、株式会社 緑書房、2015 11)Simeon Niel-Asher:ビジュアルでわかるトリガーポイント治療、株式会社 緑書房、2010 12)Medical Note:https://medicalnote.jp/ 13)よしざわクリニック:http://www.yoshizawaclinic.com/index.html 14)一般社団法人 日本めまい平衡学会:めまいの診断基準化のための資料 診断基準2017年改定 症例報告集へ戻る ホームへ戻る | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||